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序章 零と最初の一歩のお話

 初期の暗号ミステリーに英文の最頻出アルファベットは小文字の〈e〉だと言うのを鍵に謎解きを進めて行くのがありました。ガス燈時代のほの暗い一室で、作者は日がな一日虫眼鏡を片手に新聞とでも格闘してこの鍵を手にしたに違いないのです。
 それに触発されて、「現在日本のネット上で最も頻繁に登場する漢字一字は何だろう」と【Yahoo!】で調べてみたのです。思い付くまま〈夢〉〈金〉〈愛〉等々・・・。
 無論これらも高頻出なのですが、まだ上がありました。それは〈金〉の四倍、〈愛〉の十倍の頻度でネット社会に君臨しているのです。どんな語かおわかりですか?
 「えっ!、そんなことに日がな一日虫眼鏡・・・、やってられな~い」ですって。
簡単、検索一発、ネット時代の日本なのです、お客様。



それほど意図したわけでも無いのにその語はここ迄それぞれ六度も出てきます。数えてみて下さい。ネット上で他を圧し拮抗して登場する漢字は数字の〈一〉と〈日〉なのです。その日、どちらも十八億三千万というページ数でした。
 でもまぁ当然と言えば当然、ここは一等最初に日出(ひい)ずる国なのですから。
 ただ穿(うが)った味方をすれば日本のネット世界は〈一〉と〈日〉、つまりは〈一日〉が十八億三千万も蠢(うごめ)く世界だったのです。
 ちなみにアルファベットの最頻出語はここでは〈e〉ではなく〈a〉でした。数字は無論〈0〉と〈1〉、ご推察通りです。
 それにしてもこの十八億三千万の一日・・・一日・・・。他の語の場合と異なりその数は思い立って最初に開いたその時限りで二度と表示されることはありませんでした。ネットは生き物、日進月歩。いろんな動きがあって当然ということでしょうが、でもその時何故か、何かが慌てて取り繕ってこの数を消し去った。そんな印象を持ったのでした。

 さて恐縮ですが本題です。あるお客様が「ここのホームペ-ジは面白い」とお連れのお客様にお勧め頂いてのを聞きつけ、その気になって次を試してみたのです。〈楽しい話〉四十万、〈楽しい物語〉九百万。しかし、いかにもありそうな〈楽楽物語〉、その名のページは皆無なのです。零なのです。

 開店以来半世紀、この節目にコマーシャル。当店とメニューに纏(まつ)わる“楽書き”集めた物語。
その名も『楽楽物語』 さぁ、軽やかに最初の一歩、快発進!!

 ・・・されど、さながら、〈ら〉抜き言葉、・・・〈苦苦物語〉的、怪発進!

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                    紫陽花(あじさい)月 



過去と来世と近未来
 メニュー考◆待って曲がって◆の時代。初老の紳士が暖簾(のれん)のまだ掛けられてない店内に入った。母は手を止め挨拶を交わすと、お茶を勧めて用件のきり出されるのを待った。
 久しぶりに訪れた亡き夫の友人にああ穏やかに頼まれると忙しさを理由に断れる話でもなかった。
 事を先延ばしに出来ぬ彼女は翌日店の片隅に立ったまま次の文を書いた。

 《静かな国から》
 色の黒いことで県下に名を挙げ、健康に恵まれていたつもりの小生が、いつの間にか肝硬変という悪友と道連れになり、老いたる両親と6人の小さき者ども、そして愚妻を残して旅に出で、致し方なく静かな日々に入り、外輪の峰をへいとして眠りここに十四年!
 例年酷暑も過ぎてせみの声もうら哀しい頃、迎え火に帰心矢の如く帰宅する。そして3間は家族の独り言に耳を貸してやる事にしている小生に、今年は楽しいニュースがあるとさし出された枚の写真。さて!白髪?これは失敬、何時の組閣の写真とよく見たら、ワァー居る居る、神水時代のあの友、この友。息はずませて食い入るように眺めた、眺めた。人思いは遠く青春の頃をかけめぐる。「息の持ち合わせがあれば出て来い林」と言ってくれるようで口惜しくもうれしい限りだ。しかも生地内牧の湯の里で賑やかな夕のさまざま、小生も生あらば卒業後腕をあげたチャールストンのつも踊れたのにと、返す返すも残念に思う。それにしても愚妻の奴、代理と言う勝手な言い訳のもとに、調子外れの糸の御ひろうをした由、諸兄の御耳を汚してお恥ずかしいことだ。
 諸兄は健やかに、そして業なり名を遂げ悠々自適の朝夕を送り、今尚第線で御活躍の士もあられるとか。益々のご発展を祈る次第。小生の静かな国は決して決して急いで来る処ではないということを先輩として申し上げておく。せいぜい本国で余生を楽しまれんことを。十六の夕べ送り火と共に又旅に出る。諸兄のますます健やかならんことを祈る。
 四十四年八月十五              静かの国の住人 林 武 (代筆 林 照子)
 同期の諸兄へ

 この文が掲載された小冊子、熊二師卒四十五周年記念回顧録、その巻頭言に「人類月に立つ歴史的な秋、・・・」とあります。〈静かの国〉は当時話題をさらったアポロ着陸の地〈静かの海〉からの発想でしょうか。
 あの時〈静かの海〉から送られる映像と音声に世界の多くが感嘆、歓喜したものです。コンピューターを駆使することで成し得た人類の英知とその偉業を讃える人、人。

 この父の、いや母の《〈静かな国から》、奇妙ななことに〈一〉が六度、〈日〉が六度。〈一日〉が六度。何故か冒頭の文のそれにこの数が呼応するのです。
 もしかして!大方の予想に反し、来世も何やらめまぐるしい一日が、安息日、第七の一日無く繰り返される世界?その暗示?
 父が母に文中で〈一日〉を六度も多用させることで、そんな来世を《静かな日々》と揶揄しつつ、この世界「決して決して急いで来る処ではない」と、同期の友への語りを借りて、苦を厭(いと)わず働く母を気遣い母自らの筆をして諭(さと)しているかのようなのです。
 この諭しの効あってかあらでか九十二歳、最初に暖簾掲げたこの母措いて当店は語れません。
 
 それにしてもあの十八億三千万の〈日々〉・・・。年換算で五百万年・・・。
 人類が原始の道具、拳(こぶし)大の石を片手にチンパンジーと決別し地上に君臨するために二足歩行を始めた日から、パソコンを手にした現代までの経過年数に完全に一致するのです。
 五百万年の一日・・・一日。もしかしてあの日、〈一〉と〈日〉を最初に検索した日、コンピューターが人類の進化の過程とその秘密に迫る五百万年の一日一日を、お家芸の〈0〉と〈1〉を駆使し、秘かに急ぎ最後の解析をしていたのだとしたら・・・。自らが君臨すべき時、今来たりて。
 人とコンピューターの蜜月時代はアポロの月面着陸で終わりを遂げた?餅つく兎のお顔の辺り《静かの海》で・・・。送られる画像の陰でコンピューターが人類に最初の拳を挙げた?世界中が人類の英知と偉業を称え合う、まさにあの日に。
 その事を〈静かな海〉を見下ろす〈静かの国〉の住人父が、かって母を気遣い母自らの筆をして諭したように、「一日が十八億三千万も蠢く」とか「ネットは生き物」などのお客様への私のしたり顔の語り口を通して、今又憂(うれ)い、警告しているのだとしたら。
 コンピューターにとってもはや人類は人類自らが進化の過程で置き去りにしたあの五百万年前のチンパンジーにすぎないことを
                              おわり

追記;気丈夫な母はそんな置き去りチンパンジー的行く末を嫌ってか、あるいは餅つく兎の顔のあたりで自ら現世に一睨みきかせんと思い立ってか、雨に紫陽花の季節九十三歳の誕生日目前に他界。「お母さんなどぎゃんしとんなはるね?」と、昨年赤い薔薇の花を母のためにお持ち頂いた開店当初からのお客様を始め、永きに渡り賜りました多くの方々のご贔屓、ご厚情に暑く御礼申し上げます。

  お客様各位
                               
                       
      楽楽物語 (Ⅰ) Google三景、twoノックを読む