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楽楽物語(Ⅲ) 霜降り注意報




楽楽物語 (Ⅲ) 霜振り注意報
 
 メニュー考◆微妙に語り難き仲◆を読まれて、あるお客様が「東西の横綱が逆なのでは?」とのご指摘です。 お肉の旨味東西合戦。そこでは霜降り軍団の総帥、極上ロースが”東の正横綱の座”をヒレに譲っているのです。霜降り贔屓のお客様には納得し難い番付です。その時つい返事に窮して曖昧に「あ!そうですね」としかお答え出来なかった事情・・・。
さぁ、昨今の霜降りお肉についての考察です。

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 プレイバック。
 三十年前ミュンヘン郊外ランゲンバッハ、とある農家に居候。見下ろせば絵かと見紛(みまが)う村景色。でも終日汗にまみれてお牛のお世話の身とすれば、楽しみはなんと言っても三度の食事。
 美味いビールとパンはさておき、食材ほぼ自家生産。ほくほく馬鈴薯、ザウアークラフト(キャベツの酢物) 。各種のジャムにリバーブルスト(レバーソーセージ) 。デザートお庭のさくらんぼ。時に、手飼いの羊、手飼いのお牛を食べました。
 相棒のフランツ君は実習生。若い二人は食欲旺盛。お肉の出る日、大いにそれを喜びました。
 一等最初のお肉の日、フランツ君がお皿のお肉に“おまじない”。大きな体で、フォークとナイフで、一心不乱に“おまじない”。
 「何してんの?」と尋ねる僕に「このお牛の脂はいただけない・・・」
 (脂身を赤身から完璧に切り外すこの作業、程良く焦がれた脂が好きな私は“勿体ない、フランツ君のおまじない”そう呼んだのでした)
 切り離されてふてくされ、やるせなくうずくまる脂身哀れ!でもちょっぴり酸(す)いえたこのお味・・・。
 「僕の国のお肉は脂が美味い、安くはないけど身体に良いよ」 霜降りお肉を念頭にそう言えば、
赤身頬張る彼の目が「美味くて体に良い脂など、ウンムーグリッヒ!(ありえないよ-!)」そう言っているのでした。

 現場で家畜人工授精師K君に聞きました。
 今では人工授精が殆どです。優れた牡牛の血筋を多くの子牛が引き継ぐわけです。 もっと大きな声で叫んで良いと思うのですが、良質な霜降りお肉は、悪玉コレステロールのみを抑えるサラサラのオレイン酸がとても豊富で、それがしつこくない美味さの理由です。お肌や髪にも良いですよ。
 えぇ!そうですね・・・、むしろ赤身が美味しい種類の牛も今では多くが父親譲りの霜降り指向。「霜降りで美味しそう、値段もそこそこ・・・」そう期待した消費者は半端な味に裏切られ、とどのつまりは霜振り離れ。
 霜降りは脂の質こそ重要なのです。でも市場の評価は見映(みば)重視。生産者は霜降り基準で結果が出なけりゃ足が出る。その足を大挙して輸入牛が引っぱってるのが現状です。
 銘柄牛に追いつき、追い越すつもりがあれば別ですが、経費のかさむ超霜降りよりは、むしろその銘柄牛さえ一目置くような昔懐かしい美味いお肉が創れないかと思うのです。お客様のご要望、痒い所に手の届くまさしく『そこそこ霜降り」
 脂身の質にこだわる。健康成分、うま味成分オレイン酸。これが豊富な遺伝子を持つ種雄牛の開拓です。 
 美味くて、身体に良ければ、輸入牛など足蹴に出来て(鼻息荒くてすみません)、国内での需要が伸びる。海外飛躍も夢じゃない。生産者も潤います。
 人工授精99%、熱意も技術も一級品。脂の質での新基準、この国なら可能です。
 “霜降り立国”日本で、霜降りお肉敬遠ムードが広がる前に。機を逸するその前に・・・。
 脂身まで全て食べれば、牛に言えます。「あなたを美味しく、無駄なく頂きました・・・」
 失礼します。あそこで発情牛が呼んでます。あの牛には今がその時。機を逸するその前に・・・。
 
 
  当店の対応
 「盛り合わせのロースは霜降り、或いは“あっさりお肉”からお選びいただけます。」
 「フォークとナイフをご所望ですか?直前手切りお肉の大きさがお口に余りましたか!」 
 「え!銘柄牛のこの超霜降りに、“フランツ君のおまじない”脂と赤身を・・・」
 「お客様!勿体ないと言う前に、物理的にとてもそれは、ウンムーグリッヒ・・・!(不可能かと・・・!)」 

 詩人に聞きました。
 ぼくが真実を口にするとほとんど全世界を凍らせるだろうといふ妄想によって僕は廃人であるさうだ         
                                       T.吉本 『廃人の歌』より  
  お牛に聞きました                                
私を心底口にすると殆ど全世界の舌をとろけさすだろうと言うモー想によって私は廃牛であるそうだ
                                                    霜子