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楽楽物語 (Ⅰ) Google三景、twoノック


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                           うべ

 
Googleマップ、 もとより皆様ご存知ですね。航空写真でちょっとしたハイテク技術を駆使した気分が味わえます。
 我が家を覗いてみました。ご近所の赤い屋根は直ぐ判別できるのに自分の家が見あたらないのです。あるべき場所に赤い屋根など無いのです。この世から家もろとも我が身が抹殺された気分です。
 特に迷信深くは無いですが、最近何か良からぬ事が起こったり、不吉な思いが過(よ)ぎった時など、魔除け厄除け、事の好転を願い近くの壁や何かを二度ノック。 
 ここも、「建て売りローンをやっと終えたばかりで抹殺はないだろう・・・」とばかり「トン・トン」
  するとハタと思い当たりました。ご近所はある時期、瓦の掃除とペンキの上塗りを終えているのに、手入れの届かぬ我が家の瓦は苔むし黒ずみ、衛星カメラに赤だと識別することをあっさり拒否されたというわけです。
 このようにこのマップ優れものですが、所によっては精密度に差があります。

 世界貿易センターツインビル跡地グランドゼロと、別寒辺牛(べかんべうし)村を空から、と思い立ったのです。 前者はご存知、2001年 9・11の現場です。一度も訪れたことのない街です。
 後者は道東、釧路の東。近年、隣の厚岸湖と共にラムサール条約に登録された別寒辺牛湿原の近くです。三十年前、牧羊犬や牛達と三度の冬を過ごした場所です。
 待ち侘びた春に狂喜し急降下する野地シギの地。たまに目測を誤り凍(い)てた大地に激突するのもいます。 そしてまた、「クー」と鋭く鳴いて大空を横切る丹頂鶴の里。牧草地にはキタキツネが徘徊し、蝦夷(エゾ)モモンガが松林を滑空する、そんな土地です。
 
 画面に備わる〈一〉から〈二十〉の拡大機能のレベル〈十〉で、まず道東南部に目をやります。頻繁にジープを駆(か)った国道44号線が目に入ります。釧路の郊外から蝦夷松林を抜け、最東端、北方領土の望める根室に迄通ずる道です。
 衛星カメラも広大な緑の森を捉えています。森を抜けると、牡蠣や昆布の良漁場、厚岸湾、厚岸湖です。この町を過ぎるとお目当ての別寒辺牛村までもう一走り。
 しかしここで、懐かしさ、勿体なさも相まって、三十年の間隙を一気に埋めていきなり空からこの地に踏み入ることが躊躇(ためら)われたのです。 
 
 いったんカメラを“グランドゼロ”に切り替えました。レベルを上げて近づきます。そして最大のレベル〈二十〉。膨大な瓦礫の山も、その山に山と埋もれた悲しみさえも、時を経て片付けられてしまった如く、整地の済んだその地には次の工事に備える重機、トラック、人の影さえ映し出されていたのです。
 
 2001年九月九日、日本で最初のBSE感染牛が報告された日、願ったのです。「この件が霞むほど何かどでかい事が起きればいい」と。
 そして二日後、大地に激突するあのシギさながらにツインタワーに突っ込む二機の飛行機、あの映像が飛び込んでききたのです。程なくイラクへの空爆・・・。
 
 思えば9・11ならぬ9・9は「美味しい物は身体に良いんだ」という無邪気な従来型の認識を、鉄槌もって打ち砕く一大事件であったのです。厨房に立つ者として、浅はかで愚かな願いを恥じたのです。
 
 グランドゼロ 9・11および9・9に・・・ ツゥーノック 「トン・トン」

 再び別寒辺牛村の上空です。
 拡大レベル〈十一〉で根室本線、糸魚沢(いといざわ)駅が見てとれます。別枠で当時より幾らかモダンな駅舎の写真も表示されます。 この駅を背に北に進むと湿地を取り込み起伏も多い、見回るだけでかなりの時を要するあの牧場・・・。レベルを上げて〈十二〉、〈十三〉。このあたりのはずです。〈十四〉〈十五〉、急に画像の質が落ちました。
 レベル〈十六〉。刹那、丹頂の澄んだ一声。そこに二匹のボーダコリーを従えて口を開け夢見ごこちでこちらを見上げる一人の牧夫、若きおのれを見たのです。
 慌てて目を凝らします。すると「恐れ入りますがこの地域の詳細画像は表示出来ません。ズームアウトして広域表示をご利用下さい」と、あるのでした。
 
 Googleマップ抜かりなし。その鮮明さの至らぬ所は、時に埋もれた郷愁などをも掘り起こし垣間見させてくれるのです。
 
 澄み渡る天空を、もの悲しくも丹頂のなんと優美に翔(と)び行くことか!
 別寒辺牛村 ・・・NON ・・・ノック。